後始末請け負います
〜第三章〜


「ご苦労であった、後は我々に任せてもらおうか」

唐突に声をかけられ、カービィは顔をしかめつつ振り向いた。

そこに居たのはこの町の警備兵らしき人物たち。

「・・・・。」

カービィはメタナイトの方を見た。

メタナイトは警備兵たちを完全に無視し、赤ん坊を母親のもろに返して、

サラマンダーに近づいている。

カービィはメタナイトに習って警備兵を無視することにした。

「・・・ソコの君、聞こえなかったのか?後始末は我々に・・・!」

メタナイトを引き止めるため、肩をつかもうとした警備兵は硬直した。

その琥珀色の眼ににらまれて。

カービィは気づかれないようにため息をついた。

怒っている、彼はものすっごく怒っている。

サラマンダーが暴れていたとき、一般市民を押しのけて逃げようとしていた彼らに。

サラマンダーが動かなくなったとたんに、その首を取ろうとしている彼らに。

そして、動かない獲物を、すでに死んだと思っている彼らに。



ぐるるるるるるる・・・・・



低いうなり声とともにサラマンダーが首をもたげた。

当たり前だろう。

火蜥蜴サラマンダーに炎の攻撃では、衝撃で気絶させるのが精一杯だった。

「よかったぁ、あんまり怪我してないね」

カービィは本当にうれしそうにつぶやいた。

サラマンダーに怪我を負わせる事はしたくなかった。

サラマンダーはただ還ろうとしただけだから。



メタナイトは悲鳴を上げながら転がるように逃げていく警備兵を冷めた眼で一瞥した。

何の感慨もなくそれを見送るとサラマンダーに向き直る。

戦意は鈍っていないらしく、牙をむき、うなり声を上げている。

しかし、メタナイトは恐れる様子を見せず、サラマンダーにさらに近づいていった。



「ちょっちょっとあんた!!」

「へ?」

カービィは見覚えのない人物に急に声をかけられていささか間の抜けた声をだした。

記憶のかなたを穿り返し、やっとのことでそれが誰だか思い出す。

自分たちに依頼料をくれる大事な人だ。

それに気づき、一応敬語で対応する事にした。

「なんですか?」

「何であの化け物は死んでないんだ!殺したんじゃなかったのか!!」

カービィはものすっごく露骨に眉をしかめた。

コノ人物への嫌悪感がどんどんつのっていった。

「依頼の内容は赤ちゃんの救出でしょ?殺しなんか請け負ってないよ」

「何を言ってるんだ!あんな危険な生物を活かしておくつもりか!!」

―その危険な生物を飼おうとしてたのはどこの誰だ―

カービィはかなりの自制心を使ってその言葉を飲み込んだ。

彼からはまだ依頼料をもらっていないのだ。

「黙って見てなよ、すぐ終わるから」

ぞんざいな口調でカービィは言い切った



赤く燃える火の山、沸きあがる溶岩、火蜥蜴たちの咆哮。

それは確かにこのサラマンダーの故郷だった。

幸せだった。

たくさんの仲間たち、暖かい寝床、優しい母蜥蜴。

本当に幸せだった。

しかし、その幸せは突然壊された。

戯れに山のふもとの森に下りたとき、今まで見たことがない生き物が集まってきた。

鎖をかけられ、檻に入れられたとき、それがニンゲンということが分かった。

幾度も、幾度も母蜥蜴が言っていた、ニンゲンには近寄るなと。

悲しかった。

幼いこのサラマンダーにはその気持ちを悲しいとしか表現できなかった。

本当に悲しかった。



メタナイトは静に眼を開けた。

サラマンダーは驚いた事におとなしく頭をたれ、額を触らせている。

メタナイトは再び眼を閉じた。



ふと、サラマンダーは自分に話しかけてくる存在に気づいた。

ニンゲン?

少し違う感じがした。ニンゲンとは少し形が違う感じがする・・・。

《還れる》

カエレル?

《還れる、還してやる》

カエシテクレル?

《さぁ、飛んでみろ》

トベルノ?

《飛べる、さぁ、行け》

ウン

サラマンダーは翼を広げた。



「な、なんだ?」

「隊長、サラマンダーがと、飛ぼうとしています!」

「なに!?止めろ、止めるんだ!」

「何で止めるのさ」

カービィは剣を抜こうとした警備兵の腕を押さえつけた。

「なにを・・・!」

「サラマンダーは家に帰るんだから、手を出す必要はないじゃん」

カービィはにっこりと笑った。

「手柄は君たちのものでいいよ、僕たちが欲しいのは依頼料なんだから」



《いけ、一人で還れるだろう》

ウン!アリガトウ!

《・・・もう捕まるようなまねはするな》

ウン!

不思議と帰り道ははっきり分かった。

自分の生まれ育った山へ、サラマンダーは飛び立った。



メタナイトは瓦礫の中心に立っていた。

周りの被害状況はひどいものだったが、これはサラマンダーを飼おうとしていたあの男の責任になるだろう。

同情心はわかないが。

「メタナイトぉ〜」

カービィが駆け寄ってきた。

「依頼料受け取ってきたよ」

「そうか」

「うん、そうゆうわけで」

カービィが振り向いた方向を見ると、理不尽な怒りに燃えている警備兵の方々。

「とんずら?」

「だな」

二人はわき目も振らずに走り出した。



それを不自然に濃い影が見つめている事には気づかずに・・・