幸せの条件
最終話〜幸せの条件


―これは無かった事になった物語―



ここは銀河の果ての果て、ほとんどの人の記憶から

消えてしまった伝説の星、『リミーナ』

キツネのような生き物が、草むらの中からゆっくり体を起こしました。

「ふぅ。よく寝たわぁ。あれ?ここは…?」

キツネのような生き物は辺りを見回しました。

彼女の目に、青い体に赤い目を持つ生き物が映りました。

「あ、デッキー!!」

「よ。やっとお目覚めか、レッカ。」

青い体の、デッキーと呼ばれた生き物がこちらへ飛んできました。

レッカと呼ばれたキツネが、顔に疑問符を浮かべながら尋ねます。

「ね、アタシ等どうなったん?ポップスターは?てかなんで生きとん?」

「まぁ待て。もうすぐリプリーが来るから。」

デッキーはゆっくりと空を見上げました。

澄み切った青空に、大きな雲が一つ、流れていきます。

その空に、暫くして大きなピンク色の生き物が現れました。

「よぉリプリー。お疲れさん。」

デッキーはその生き物に向かって声をかけました。

「ハァ…ハァ。あぁ疲れたぁ。ワイもうくたくたや。」

リプリーと呼ばれた鳥が、レッカの隣に座り込みました。

「どこいっとったん?」

レッカがリプリーに話しかけます。

「ワイ?洞窟に行って、誰も入れんように洞窟を閉鎖してきた。」

「お疲れ。でも本来の予定よりは楽だろ?」

デッキーが苦笑しながら言いました。

「本当は、おめぇ一人でカービィ達をポップスターに運ぶ予定だったんだし。なんせ

予定通りカービィが『ポップスターの呪いを解いて』って願ってたら

あいつ等はあの後あそこの洞窟で

気絶したまんまだもんな。あいつ等自力じゃ帰れないだろうし。だからお前が生き残ってあいつ等をポップスターまで運ぶ〜と。」

「でも、あの事は無かった事になったから、今頃あいつ等はいつも通りの生活、

いつも通りの場所におるはず…ってアレ?なんでワイあいつ等

のこと覚え…」

「ね、リプリーも来たし、アタシ等どうなったんか教えてよ。」 疑問符を浮かべたままのレッカがデッキーにせがみます。

「本当は、今回のこと全て完全に無かった事になるはずだった。カービィ達の事も、

星が滅んだ事も、全て、忘れてしまうはずだった。」

デッキーは流れる雲を見つめながらそう答えました。

「けれど、俺等は何故か全部覚えている。だろ?」

その言葉に、リプリーもレッカも頷きました。

「つまり……つまり全部、夢だったんだよ。今回の事、全部。

ドゥーリルが、カービィがした事。それは…

今回の事全て『無かった事』にしたんじゃない。

全てただの…ただ『夢の中の話』にしたんだ。夢だから、全部覚えてるんだ。」

「だから覚えてるんか…」

リプリーが妙に納得した顔をしました。

「じゃ、アタシ等が死んだのも、ドゥーリルが砕けた事も、全部夢になったの?」

レッカはそうデッキーに尋ねました。

「いや。全てが夢になったんじゃない。ドゥーリルももう無いし。それに…」

「「それに?」」

「俺のお守り袋が、俺の首にかかってないだろ?」

「「あ!!」」

「つまり、あの事は本当だったのかもしれない。それともやっぱり夢だったのかもしれない。ただ…」

デッキーはそこで一度言葉を切り、笑顔になりました。

「一つだけ確かなことは、俺等はまたあいつ等に会えるって事だ。だって…」

空は澄み切り雲は流れ、目の前にどこまでも平和な世界が広がっています。



カービィ、あの時俺がどうしておめぇ等を助けたか、知ってるか?

羨ましかったってのもある。けど、一番の理由はな。

あんまりにもお前等が真っ直ぐだったから、だからさ。

俺も、張り合ってみたかったんだよ。

『カッコ付けだ』って笑ってくれても良い。

見えるか?俺等が、見えるかカービィ?

俺等は今、幸せだぞ。



空を見上げながら、デッキーは小さく、でもしっかりと呟きました。

「あいつ等と俺等は、友達だからな。」



ここはあきれるほど平和なポップスターの

あきれるほど平和なプププランド。

とある家に住むピンク色の生き物が布団から這い出してきました。

「ふあぁぁぁ〜。よ〜く寝たぁぁ〜。あれ?」

生き物、カービィは大きな欠伸をしました。

「あれ?なんで僕ここにいるの?ポップスターは?」

カービィは暫く首を傾げながら考えました。

「……夢?」

お天気が良かったので、カービィは外に出てきました。

太陽の光が、きらきらと輝いています。

どこまでもどこまでも平和な世界の風景。

けれど、その景色がすぐに壊れてしまうような、そんな感じ。

そんな感じをカービィは先ほどまで感じていたはずでした。

じゃあ、どうしてこんなに平和なんだろう?

カービィは首をしきりに傾げながら散歩をしました。

「おい!カービィ!!!」

向こうから、デデデ大王が駆けてきました。

デデデ大王だけではありません。

メタナイトもメタナイツもマルクまで、駆けてきます。

「あ、みんな〜!!!」

カービィは笑顔で走っていきました。

「聞いてよ〜!僕、何か変な夢を見ちゃったよ〜」

「………夢じゃ…ない」

メタナイトが、ゆっくりと呟きました。

「え?」

「手に持ってるそれは、確か…」

「え?……あ!!!」

カービィはゆっくりと自分の手をを開きました。

そこには、デッキーから貰った、あの袋が乗っていました。

「夢じゃ………………ない」

カービィはまたそれを強く握り締めました。

「じゃ、デッキーもリプリーもレッカも、あの事も本当だったんだ!…じゃ、どうして僕はまだ覚えてるんだろう?」

マルクは暫く考え込んでから呟きました。

「もしかしたら、奇跡が起こったのかもしれないのサ。」

「奇跡ねぇ。」

カービィはあまり納得した様子ではありません。

「ま、本当のことは今度直接聞いたらいいか。デッキーに。」

と言ったカービィに、デデデ大王が少し俯いて言いました。

「でも、また会えるとは限らないぞ。どこにデッキー達が住んでるのか…リミーナ?

だったっけ。あの星がどこにあるかも知らないし。」

「会えるよ!!!!」

カービィが自信満々に言いました。

「お前、その自信はどこから来るダス?」

メイスナイトがあきれたように言いました。

けれどカービィは自信満々に言い切りました。

「絶対会えるもん。だって僕等は友達だもん。それに…」

そして手に持ったあの袋を、また強く握り締めました。

「これ、返さなきゃ…ね?」



デッキーデッキー、僕は今幸せだよ。君も、幸せ?

幸せって色々有るから、正直僕もよく分かんないけど、

ただ、僕等が今見上げているあの空を、君も同じように見つめていたら、

ただ、僕が笑って君も笑えたら、

それが幸せって事だと僕は思うよ。



―これは無かった事になった物語―

―これはただの、取るに足らない夢物語―

―心の奥で、ずっと、ずっと、忘れられていた物語―

―けれど、忘れてはいけない物語―



澄み切った青空に、大きな雲が一つ、流れていきました。

まるで、「幸せだよ」と言う様に…



―――ねぇ、君は今、幸せ?―――



END