銀河に・・・お願い・・・
***海の王***


「あはは、ファッティー君、デカすぎだよ・・・」



見上げる、その先。桟橋の中央で、ただ佇んでいるしかなかった、その迫力。

まさに、海の王とでもいうべきであろう・・・その・・・



「くじら」

「メタナイト、違うよ。ファッティーホエールだよ」

「む・・・そんな事は、分かって・・・」

「二人とも、今そんなこと言っている場合じゃないでしょう」



ファッティーホエール。セーラー服を着てパイプをくわえた、妙な鯨だ。

澄んだ夜空の藍晶石のような光が、果てまで広がる広大な海と、ファッティーホエールの青い背を、さらに青くしている。

ファッティーホエールは、海を揺らすような太く響く声で、愉快そうに笑った。



「フォッフォッフォッ。・・・ミズア、仕事ご苦労だった」

「ありがとうございます」

「そして、二人の星の戦士よ。・・・お前達は、星のエネルギーを集めているのだったな?」



その問いに、私は驚いた。ミズアはどうだか知らんが、カービィは気付いていない。



「何故、我々が星のエネルギーを集めている事を・・・」

「ああっ!そっか、君には僕達まだ何にも話していないもんね!」

・・・驚くのが遅いぞ、カービィ。まあ、それはいいとしてだ。

私とカービィの疑問に対し、ファッティーホエールはパイプを一息吹かす。

湿り気の混じった煙草の匂いと共に、ファッティーは言う。

「我ら泉の番人には、ちょっとした通信機関があるのだ。君らの事は、フロリアの泉の番人から聞いた」

「ねぇねぇ、つうしんきかんって何?」

「知りたいのか?」

「うん、是非!」

カービィの妙な輝きを湛えた目と、それを面白そうに見るファッティーの目が合う。

・・・カービィの顔が赤くなった。

「・・・・・・・おい」

「えっ、べ、別に僕は何にも思ってないよっ!?」

私は何も言っていないのだが。

・・・とりあえず溜息を吐き、ふと見たファッティーは、なんだか面白そうな笑みを浮かべていた。

・・・・・少々やな予感がするのだが。

「・・・力試しついでだ。俺に勝ったら教えてやろう」

ええっ、とカービィは驚く。こうなると思った・・・

・・・まあ、こちらもちょっとした運動になるだろう。私は仮面の下で笑った。

「いいだろう。その挑戦、受けて立とう」

「ええっ!?メタナイト、なんで聞き入れちゃうんだよ〜」

「あのな・・・お前、この相手なら大丈夫だろう?」

「あ・・・そうだね!」

こんな会話、前にもした気が・・・

「それじゃあ・・・」

カービィは、先程取ったソードコピーを装着した。

私は剣を抜いた。カービィも私に合わせて剣をかかげた。

・・・ファッティーホエールはもう戦闘態勢に入っている。

「やるぞっ!」

「うむ!」



――戦闘開始。



ドッパアァァン

大きな水音をたて、ファッティーは桟橋の下から不意打ちをしかけてきた!

「わっ!・・・てやあぁぁぁっ!」

カービィはファッティーに向かって、回転切りをしかけた。

が、ファッティーが水中からジャンプした時の水飛沫が、カービィの目の前に迫る。

カービィは、思わず目をつぶった。

ドンッ

「うわあっ!?」

バッシャアン

「っ・・・」

「カービィ、目を閉じるな!目を開けていれば、敵や障害物を避けられる」

ファッティーは着水した後、カービィ達に向かって突進してきた。

体当たりを食らわされ、体力が少し減ったカービィだったが、

めげずに立ち上がって今や敵と化したファッティーホエールを睨む。

「今度は・・・やああぁぁぁっ!」

突進してくるファッティーに向かって、カービィは攻撃するが・・・

「っ、正面から攻撃するな・・・」

「わあぁぁっ!?」

カービィの体が宙を舞う。

そのまま突進してくるファッティーに、メタナイトは二、三撃食らわし、上に避ける。

吹っ飛ばされたカービィは、ファッティーホエールに与えたダメージと殆ど同じぐらいのダメージを受けていた。

メタナイトが攻撃態勢を整えながら、カービィに話しかける。

「いいか!突進してくる敵は、一度避け、後ろから攻撃するのが基本だ!

正面から攻撃する方法もあるが、無鉄砲に向かって行くと反対にダメージを食らうぞ!」

「・・・分かった」

「よし。体勢を整えろ!」


カービィは、黙って頷く。

と、離れたところで水音がしたかと思うと、宙に孤をえがいて、

ファッティーがこちらへ突っ込んでくるのが見えた。


「防御っ!」

メタナイトの声で、慌てて防御するカービィ。

ファッティーは、桟橋の少しを破壊して、カービィ達の真下に着水した。

途端、強烈な水飛沫が二人を宙に舞い上げた。

「うわあぁっ!?」

「くっ!」

メタナイトは桟橋にぶつかる瞬間、翼を広げて上手く着地した。

が、カービィは受身をとれずに激突。

「だっ」

「次、横から来るぞ!」

「けほっ、かはっ・・・う・・・」

カービィは胸と思われるところをぶつけたらしく、苦しそうに噎せている。

なんとか立ちあがり、体勢を戻そうとしたが・・・

「カービィっ!」

「え?」

ドカッ

「うあぁっ!?」

再び宙を舞うカービィ。ぶつかった拍子に、コピー能力が取れてしまったようだ。

メタナイトは舌打ちをする。

「っ、カービィ!」

「・・・・・」

「・・・それでも、お前は星の戦士なのかっ!」

怒鳴るようなメタナイトの声に、カービィは黙ったまま。

ファッティーが、次の攻撃に入ろうとする。



「相手によるんだよぉ・・・」

「貴様はっ」

しかし、メタナイトのその声は、後ろの水音にかき消された。

振り向くと、ファッティーが再び突進してくるところだった。

「・・・そっか、無理に剣で戦おうとするから・・・!」

はっと、何かに気付くカービィ。

しかし、ファッティーは確実にカービィに向かって迫っていた。

メタナイトは上に逃げ、後ろに回るが、カービィは気付いていないのか動こうとしない。

「カービィ!」

「それなら!」

ドカーン

メタナイトは、全身の血の気が引くのを感じた。

・・・しかし、彼が見たのはまた宙に舞うカービィなどではなかった。

「・・・やるな」

メタナイトは、思わずふっと笑う。

ファッティーが水中に消えた後にいたのは、

オレンジと赤の二股帽子を被り、黄色く変色したカービィだった。

「ビームカービィか・・・」

カービィは、メタナイトに向かってふっと笑う。

その顔を見て、何故かほっとするメタナイト。

やはり、落ちこんでいるカービィなど見たくなかったのだろう。

ファッティーは、今度はジャンプしながら向かってきたが、既に二人には効かなくなっていた。

「はあぁぁぁぁっ、波動ビームッ!」

「ソードビームッ!」

二人の攻撃は、見事にファッティーホエールにクリティカルヒットした。

体力が大幅に削られ、最後の攻撃とばかりに突進するファッティーだったが、本当に最後の攻撃になってしまった。

「いくよっ!はあぁぁぁぁっ」

「ぬぅっ!」

いよいよ二人に激突するという瞬間。

「波動っビィームゥッ!!」

「ソード竜巻斬りぃッ!!」

ドカアァァンッ

・・・ファッティーは吹っ飛ばされ、遠くの海へと落ちた。

カービィ達の勝利だ!

「やったぁっ!」

「まあまあってとこか」

――戦闘終了。

「・・・カービィには焦ったぞ」

「いい〜じゃないの♪勝ったんだし♪」

「お前は・・・」

「二人とも、お疲れ様でした♪」

「ミズア!」

どこに行っていたか知らないが、ふいにミズアが現れた。

ミズアはにこやかに笑う。

「ファッティーホエール様が、泉へ案内してくれるそうです。ね」

と、カービィ達の目の前にファッティーホエールが浮上してきた。

ファッティーはパイプを吹かす。その体は傷だらけだが、本人はいたって元気そうだ。

「うむ。冷静な判断力と回転の良さ・・・しかと認めたぞ。

さあ、俺の背に乗れ。泉まで送る」

ファッティーはカービィ達に背を向ける。

二人はその大きな背に乗り、ミズアは水に入った。

ミズアは自分で泳ぐつもりなのだろう。(まあ、もともとは海洋生物だし・・・)

二人が乗った事を確認すると、ファッティーは沖に向かって泳ぎ出した。

泳ぎ泳いで・・・ファッティーが止まった場所は、やはり何も無い海原。

「あれ?何で止まっちゃうの?」

「ここが目的の場所だ」

・・・と言ったって、見渡しても水以外何もない。

「ここって・・・何もないよ?」

「・・・二人とも、ちょっと息を溜めろ。少し潜るぞ」

「「は?いや、ちょっと待っ・・・」」

ザブン!

二人が止める間もなく、ファッティーは真下へ向かって潜り始めた。

・・・潜ること約三十秒。

ファッティーは、海中には無いはずの、水面に浮かび上がってきた。

「げほっ、ごほっ!ふぁ、ファッティー、きゅ、急に潜るから・・・」

「こほっ・・・え・・・」

「・・・メタナイト?どうしたの?・・・あ」

・・・広大な海の、水の奥深くに隠されたもの。

そこは、小さいとはいえないが大きすぎるとも言えない空間だった。

そして、空間の中央で虹色に輝く、夢の泉。

・・・あまりにも澄んだ水のおかげで、ここから上の空が見えた。(上からはここは見えなかったのだが・・・)

そしてやはり、泉の手前にはキラキラ輝く星の破片のようなものが浮かんでいた。

「フロリアでは木立が囲い、アクアリスでは水中に隠されているわけか・・・なるほど」

「俺の言う通信機関とはこの泉の事でな。

我ら泉の番人は、泉を通して他の星と連絡を取る事ができるのだ」

「・・・なんだかよくわかんないけど・・・とにかく、僕は星のエネルギーを取ってくるから」

カービィはフロリアの時のように、星のエネルギーを取った。

そして変身が解け、手の中のそれはスターロッドに入り、以前のように、

光の柱のようなものが天へ伸びていくのを、三人は見守っていた。

「・・・さて、行くか」

メタナイトがそう言った時。

「あ、ちょっと注意があります」

「「ミズア」」

さっきと同じように、ふいにミズアが現れた。

「・・・注意って?」

「まず、他の星の案内者は、私ほど友好的ではないと思いますよ」

「と、いうと?」

「今回は事を急ぎますから・・・他の星の案内者は、来るのが遅い、と苛立ってるんですよ」

「ええ、僕達じゅうぶん急いでるよ〜」

カービィが反論を唱えると、ミズアは苦笑いをする。

「仕方がありません・・・いつ来るか分からない者を待つのですから」

「・・・それは確かにいらいらするかも・・・」

カービィは少し納得する。

これからが大変そうだ・・・と、メタナイトは思った。

光の柱が消え、空に一本の掛け橋みたいなものができた時、一同はまた海面へと戻っていた。

「ワープスター!」

「スターシップ!」

それぞれの乗り物を呼び、二人はそれに乗りこんで、

ファッティーホエールとミズアの方を振り向く。

「ミズア、色々ありがとね〜♪」

「それでは!」

カービィとメタナイトを乗せた二機は、空へと飛び上がった。

「さあ、目指すはスカイハイだ!」

「レッツゴ〜!」

二機は流れ星のように掛け橋を渡り、次の星へと向かって行った。

その光を、ファッティーホエールとミズアは見守っていた。

ファッティーホエールは、静かに呟いた。

「あの二人なら・・・」

「・・・ファッティーホエール様?」

ミズアが尋ねても、ファッティーホエールは何も言わずに、ただ空を見上げていた。

・・・やがて二つの流れ星は、空の彼方へと消えていった。

―――残る星、あと六つ

続く

あとがき:だいぶ遅れてすいません。(汗

     一応アクアリス編は終わりました。次は雲の惑星、スカイハイ。

     はあ・・・このペースだと先が思いやられるなぁ・・・それでも良ければ・・・(滝汗

     ちなみに、カービィは変身すると性格が変わる設定です。一応。(一応?

     ・・・今読みなおすとえらくしょぼく感じます。ははは・・・(泣