ハートフルソルジャー
第一章 優しさの音色


――惑星リオス――

緑豊かな平和な星。

少なくとも、二日前まではそうだった。

今では、荒れ果てた荒野が広がり、草木は枯れ、生きている者は一人だけ。

彼は、薄暗い地下室にいた。

この星で生きている者は彼一人。

名をラグナと言う、人間だ。

美しい剣を持った若者で、この星で生きている者は彼一人。

ラグナは、何やら大きな魔方陣を描いていた。

広い地下室一杯の魔方陣。

魔方陣ができあがると、ラグナは魔方陣に輝く粉のようなものを蒔いた。

すると魔方陣は眩しく光った。

その眩しい光は魔方陣の中にいるラグナを包んだ。

光が消えた時、ラグナはもうそこにはいなかった。

ラグナは、はるか遠くの別の星にいた―――――。



ある冬の日。

「じゃあ、また明日ねー。」

「うん。さよなら、カー君。」

今日もまた、プププランドでは、カービィやその仲間達が一日楽しく遊んで過ごしていた。

夕日が沈み始めるころ、カービィ達はそれぞれの家へ帰って行く。

カービィは家に帰るといつものように夕食の準備を始める。

「今日はいつもよりお腹が減ってるから、ちょっと多めに食べよーっと!」

カービィが夕食を食べようとしたその時、外から何やら美しい音色が聞こえた。

「笛…かなぁ?誰だろ…」

カービィは一瞬で夕食を食べ終えると、外の様子を見ようと、家のドアを開けた。



気が付くとラグナは草むらに横たわっていた。

上半身を起こしてみると、ラグナのいる場所は、小高い丘のようだった。

暗くてわかりにくいが、遠くの方には小さな町と城が見える。

「(ここはどこなんだろう?)」

ラグナはそんな事を考えたが、その場を動く気にもなれず、じっとしていた。

「(寒い…)」

自分の心臓が激しく動いているのがわかる。

当然だ。

いきなり未知の星に来て、何が住んでいて、どんな所なのかもわからない。

来る前から予想していたことだが、ラグナはやはり不安になってきた。

「(…もう寝よう。夜見たいだし、先のことは明日考えよう。今日はもう疲れた…)」

ラグナは、再び草むらに上半身を倒した。

背中になにか当たった。

専用の袋に入った横笛だ。

ラグナはおもむろに、その笛を吹き始めた。

美しいメロディーが辺りに響く。

ラグナが横笛を吹いた理由は―――――――特に無い。

だがラグナはその笛を吹くと、安心できるような気がするのだ。

その笛の音色は、まるで見えない何かが優しく体を包み込んでいくような…そんな音色だった。

「いい音だね。」

「(誰…!?)」

ラグナが演奏をやめて振り向くと、そこには何ともおかしな生き物がいた。

ピンク色の丸い体に、赤い足と、体と同色の手らしきもの。

顔もちゃんとあった。

ラグナが不思議そうにそのピンク玉を見ていると、ピンク玉の方から話し掛けてきた。

「君、このあたりじゃ見ないね。何処から来たの?」

「僕?僕は…何処から来たんだろうね。」

ラグナは滅んだ故郷のこと等、一秒でも早く忘れてしまいたかった。

だから、何処から来たのかと聞かれても、答える気にはなれなかった。

ピンク玉は、ラグナの隣りに座ると、また話し掛けてきた。

「じゃあ、名前は?」

「僕は…ラグナ。」

まだ気が滅入っているのか、ラグナの声は少し重かったが、カービィは気に止めなかった。

「ラグナだね!僕はカービィ。よろしくね!」

ラグナは、カービィと話していると、落ち込んでいることさえ、馬鹿らしいような気がした。

「ああ。よろしく。カービィ。」

2人は、笑った。

何故笑ったかはわからなかったが、無意識のうちに笑っていた。

「僕達、なんで笑ってるんだろ?」

カービィが笑いながら言った。

「わからない。なんでだろう?」

少なくとも、今は笑えた。

それからカービィはしばらくの間ラグナに色々なことを教えた。

プププランドのこと、友達のこと、自分のこと。

そうしてしばらく話していた時、カービィが言った。

「そういえばラグナは、行くあてはあるの?」

「いや、ないから今日はここで寝て、先のことは明日…」

ラグナがそう言いかけると、カービィがそれを遮り、こう言った。

「じゃあ、今夜は寒いし、僕の家に泊まりなよ!」

「カービィの家?」

ラグナは、内心かなり驚いていた。

出会って間も無い人間を、旅館でもない自分の家に泊める人がいるだろうか?

「すぐそこだよ!ほら、早く!」

カービィは丘を駆け上がった。

丘に上には、卵を半分地面に埋めたような形の家があった。

断るのも悪い気がしたので、ラグナはカービィの家に泊まることにした。

入口が少し小さかったが、ラグナにとっては、まあまあの広さだった。

カービィは時計を見るなり、いきなり大声で叫んだ。

時計は、夜の11時を指していた。

「明日何かあるの?」

ラグナが言うと、カービィは答えた。

「ないけど…よい子(?)はもう寝る時間だよ!それと、この布団使っていいよ!」

カービィは何処から引っ張り出してきたのか、人間サイズの布団をラグナに渡した。

「おやすみ〜。」

明かりが消えると、カービィはすぐに眠り出した。

「(こんなに明るい人に出会ったのは初めてだ…)」

ラグナは、自分が生き残る道を選んだ理由を忘れてしまいそうになった。

友を救うことのできる『力』を手に入れるための旅――――――――――――。





〜管理人の感想〜
森鴎外のように、程よいところで文が終わっていて、すごく読みやすかったです。
カービィの家を『卵を半分地面に埋めたような形』というなど、
比喩も上手いですね。
ラグナさんとカービィの出会いからすべてが始まるわけですね。