幸せの条件
第8話〜希望の焼跡


デッキーが死んだ事は、心に氷のような、冷たい大きな傷跡を付けました。

自分は何も出来なかったと後悔し、己の無力さを静かに責めて…

             カービィ達は互いに一言も話さず黙々と歩いていました。

カービィの頬には、まだ涙が付いていました。

その涙をそっと拭ってやりながらメタナイトは列の先頭のリプリーに尋ねました。

「それで、我々はどうすれば?」

少々間をあけてリプリーは答えました。

「…デッキーの村、『イナル』に行くんや。あそこには…切り札が有る。」

その言葉に沈んだ顔のマルクが顔を上げます。

「………切り札なのサ???」

「そうや。あの村にはデッキーが守っていた宝、『ドゥーリル』があるんや。」

そのリプリーの言葉にレッカが言葉を続けます。

「ドゥーリルは大きなクリスタルや。願いを叶え、叶えた分だけ溶けて無くなる秘法。」

そこまで言うと、リプリーは軽く息を吸いこみました。

「大きな願いなら沢山溶けて無くなるんや。でも溶けてない残りがまた使える。」

その言葉を聞き、弾かれたようにデデデ大王が顔を上げました。

「じゃあポップスターの呪いもとけるし、デッキーも生き帰る…。」

「無理や。どっちか一つだけや。そんな規模の大きいのは一個で限界や。」

そのリプリーの言葉は、カービィの心を深く深くえぐりました。

ポップスターの呪いをとかなきゃ沢山の人が死んじゃう。ドゥ―リルで食い止めれる。

デッキーを生き返させるという事は皆を見殺しにするという事だ。

じゃあ僕は、僕はデッキーを見捨てなきゃいけないの??

「皆を犠牲にし一人だけ幸せになるか、自分を犠牲にし皆を幸せにするか…か。」

小さくそう呟いたメタナイトの言葉は、頭の中であのデッキーの言葉と重なるようでした。

「第一デッキーは裏切り者。生き帰させる必要はないんや。」

リプリーは迷いの残る声で、しかしはっきりと言いきりました。

「小さな幸せは自分で作れるけど、大きな幸せは誰かを犠牲にするから獲られるんよ。」

とレッカは静かに言い放ちました。それが条件だとでも言うように。

「…幸せの条件…か。」

微かに、誰かが小さく呟きました。

それから皆は、ただ黙々と歩いていきました。

どのくらい歩いたでしょう。目の前に、何かが焼けた後のような場所が見えました。

その奥に、大きな洞窟が有るのが分かります。リプリーの声が響きます。

「あれがデッキーの村、イナルの…焼跡や。」

それはもう村ではなくなっていました。デッキーが死んだため魔法がとけ、

本来の…滅んだ村の姿になっていました。レッカが苦々しく言葉を吐きだします。

「素朴で、豊かな村やったんよ。ナイトメアとカービィの戦いで滅びる前は…」

その言葉で、メタナイツの一人、ジャベリンナイトが溜息をつきました。

「たぶん誰も悪くないんだ。ただ、偶然が重なっただけなんだ。」

皆はそれぞれの思いを心に宿し、ジャベリンナイトを見つめました。

「それぐらい分かってる。でも、偶然で片付けるには、あまりに事実が悲しすぎるんだ…」

そう言ってもう一度溜息をつき、何事も無かったかのようにまた歩き出しました。

「ドゥーリルはあの洞窟の中や。星を救うためにも…行こう。」

先頭のリプリーの言葉に、皆は静かに肯き、洞窟に足を進めました。

…洞窟の中は闇に彩られ、ほとんど前が見えないようです。

カービィは、ふと心に疑問を浮かべました。思わず声に出して。

「何でも願いを叶えるのなら、何故彼女は仲間を生き帰らせなかったの??

僕等を裏切ってまで…なんの意味があるの?」

するとリプリーがゆっくり振り向きながら答えました。

「デッキーはドゥーリルを守る血筋に生まれとる。自らは使えへん。」

「使おうとしても、体に流れる守護の血が拒むんやって。」

レッカがボンヤリと言いました。

カービィの、皆の心とは裏腹に、見上げた空は何処までも澄みきっていました。


続く