幸せの条件
第9話〜反響する価値


洞窟の中は恐いほど静かで、歩くたびに

コツーンコツーンと音が反響して辺りを包みます。

暫く歩いて、先頭のリプリーが声を発しました。

「ドゥーリルは色々な星から狙われとる。何でも願いが叶うからな。」

リプリーの声が響いて、遠くの方で何かを言ってるように聞こえる。

「だからデッキーの種族は星の宝として守ってきた。最悪の事態に使うため。」

そこでリプリーは一旦言葉を止め、そしてまた話しだした。

「デッキーはドゥーリルを他人に使われんように守ってきたけど…」

リプリーは足を止め、ゆっくりと振り向きます。

「ホントはな、砕きたがってた。一族を破滅に導くから…と。馬鹿な奴や。」

その言葉に賛成するようにレッカは肯き、答えます。

「自分の一族に使わせれば良かったんよ。だって何でも願いが叶うんよ?」

そう言ってレッカは何処かうつろな目で言いました。

「富でも、財宝でも、権力でも、栄光でも…全ての頂点に立てるのに…」

「あのアホは『そんなつまらん物俺に必要無い』やってさ。アホや。」

と、リプリーは肩をすくめて言いました。

「幸せを捨てとるんや。欲を抑えて人生棒に振って。何でも望みが叶うのに。」

リプリーはそこまで言ってから小さく溜息を付きました。

「どんな奴でも蹴落として自分が頂点に立てるねんから。」

「では他人を蹴落として自分が頂点に立つ事は…本当に幸せか?」

リプリーの言葉に、メタナイトが静かに、けれどはっきりと尋ねました。

「願いがなんでも一つ叶うとして、己を抑えてその力を正しく使えるか?」

メタナイトの言葉は、静かに静かに洞窟に響きます。

「己の欲望に任せて、力を手に入れて、それで幸せか?」

声は響き、反響し、痛いほど何度も心に響きます。

「幸せとはそんなに安っぽい物か?」 

「己の欲に使うのは自己満足やと言いたいんやろ?でもな…」

リプリーはメタナイトの言葉にもひるまず反論を返します。

「皆そうやって生きてきた。今更ワイ等が良い子ぶっても損するだけや。」

レッカが、リプリーの言葉に続きます。

「他人を犠牲にするから幸せは手に入るんやから。それが世の中の掟。」

レッカが言い終えると、カービィがぽつりぽつりと話始めました。

「難しい事は分かんないけど…幸せは犠牲と交換する物じゃないよ。」

カービィの声がそっと洞窟に響きます。

「僕は…デッキーを助けられなかった。旅の犠牲にした。」

カービィはまっすぐ、一人一人の目を見ました。

「それで…幸せ?もしこれが『幸せ』なら僕は……僕はいらない。」

「…裏切り者をかばう必要は無いで。死んで当然…着いたで!!」

リプリーの声で皆は一斉に前を向きました。

……洞窟の中なのに、そこはほのかな光りに満ちていました。

足元は海のように水があり、波がゆらゆらと皆の顔を映します。

そしてその中心部、カービィ達の目の前に大きな…

直径3mはあるでしょう、大きな球体が浮かんでいました。

球体は淡い淡い光りをそっと灯しています。

そこだけが、まるで切り取られた別空間のような雰囲気を持っていました。

神聖で美しく、だけど何処かハカナク何処か不自然な空間。

「あれが…ドゥーリル…」

カービィは美しいクリスタルの球体に思わず感嘆の声を残しました。

「そう。何でも己の願いを叶える闇炎族の秘宝。」

レッカがドゥーリルを見つめながら言いました。

「カービィ、アンタは何を願うの?たった一つだけ、何を願う?何を欲する?」

そう。大きな願いは一つしか叶えられない。一回きりの奇跡。

呪いをとくか、デッキーを生き帰らすか。両方とも大きな願いなのです。

けれど、どちらも諦めきれない、捨てれない願い。

「僕は………」

カービィはそれっきり黙りこんでうつむきました。

「悩むやろ?ワイも悩んだ。」

しばらくして、リプリーはまっすぐドゥーリルを見つめながら言いました。

「カービィ、お前のその甘さが命を落とす。デッキーを…裏切り者を切り捨て

ポップスターを選ぶべきやった。悩まずすぐ使えばまだ間に合った。」

「…何言ってるダス?!間に合ったって一体?!」

メイスナイトの問いかけにリプリーは笑って答えます。

「ワイが…決心する時間を与えてもた…」

リプリーはレッカをちらと伺いました。そして途端に叫びました。

「ドゥーリル!!!ワイの願いは、お前が砕けて無くなる事や!!!!!!!」

その瞬間。破裂音と共に強烈な光りが辺りを包みました。

そして同時にレッカの体を別の、邪悪な光りが包み込みました。

リプリーの声が、皆の耳には遠くの方でかすれ気味に聞こえます。

「ワイ等はドゥーリルを砕く為にデッキーに生み出された。

デッキーはドゥーリルさえ消せばワイを自由の身にしてくれると言った。

だからワイの目的は自由に、幸せになる為にドゥーリルを砕く事やった。

ま、砕かんでもドゥーリルはお前等には使えへんけどな…」

光りに包まれていたレッカは、いつのまにかその場から忽然と消え去っていました。

「幸せになるには犠牲が要るんやでカービィ。」

淡々と話し続けるリプリーの足元に、大きな魔法陣が現れました。

「ドゥーリルは大きな願い事に使う最、引き換えにある犠牲が必要なんや。」

魔法陣を見たマルクが思わず叫びます。

「あれは…ワープの魔法なのサ!!!何処に行く気なのサ!?」

「ここに居ても時間の無駄や。ワイは安全な所でポップスターの崩壊を見とくわ。」

「…!レッカ…レッカちゃんは?!何処なのサ!!」

マルクがそう叫んだとたん、リプリーはその場から姿を消しました。

たった一言残して。

「ドゥーリルの犠牲は…友達の命や。」



続く